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Quartier lointain 遥かな町へ

ベルギー映画 (2010)

日本の漫画家谷口ジロー原作の『遥かな町へ』(1998)を、ベルギー(フランス語圏)の会社が中心となって作り上げたフランス版の『遥かな町へ』。私は、原作を読んだことがないし、原作の舞台となった鳥取県の倉吉市に行ったこともないので、対比どころか想像すらできないが、映画単独で観ても、かなり独創的で面白い。映画の中心となる14歳のトマ役のレオ・ルグランは、外見は14歳でありながら、心は50歳半ばの漫画家という設定なので、演技にもそれなりの難しさが要求されるが、それを無難にこなしている。不満を言えば、50歳半ばのレオ役が、原作の48歳よりもかなり年上で、しかも顔が全然レオ・ルグランに似ていなくて貧相なことと、最大の悪役であるレオの父の俳優が、ワンパターンの演技をくり返し、観るに堪えないこと。内容は、ちりばめられたストーリーが、それなりによくまとまっていて、観ていてワクワクさせられ点が高く評価できる。特にトマと1歳年上のガールフレンド、シルヴィーとのやり取りは面白いが、50歳半ばのレオの倫理観が強く入り過ぎていて、フランス系の映画としては、えらく愛情表現に対する抑制が強いことに若干の違和感を覚えた。会話の翻訳で困ったことは、フランス語の字幕が一切存在しないこと。英語の字幕が全く使い物にならなかったこと。ここでは、全面的にオランダ語の字幕を使用した(ベルギーの半分はオランダ(フラマン)語圏なので、一番間違いが少ないだろうと考えた)。

パリ中心部の一等地に住む有名な漫画家のトマ・ヴェルニヤは、明日、50代半ばの誕生日を迎えようとしているが、ここ1-2年、創作意欲がなくなり、新刊も出していない。そんな彼が、1泊予定で、ローヌ・アルプス近くの都市(リヨン?)で開催されるコミックブック・フェアに行くことになる。新刊を持たないトマにとって、フェアはただ座っているだけで、誰も見に来ない辛い場。パリに帰ろうとして乗った列車を間違え、引き返そうと最初の駅で下車。すると、そこは、かつてトマが生まれ育った、そして、悲しい思い出の詰まった湖岸の町だった。田舎町なので、次のパリ行きまでかなりの時間があり、町を散策することに。旧友の一人に会い、かつての住まいが廃屋になってしまった所も見る。最後に行ったのが、丘の上にある墓地。そこで、トマは立ちくらみがして気絶し、意識が戻ると、自分の手が若々しく、子供時代の服を着ていることに気付く。墓地の入口に放置してあった自転車で町に戻り、店のガラスに映った顔を見ると、中学時代の自分に戻っている。町の様子も、列車から降りた時とは違い、活気のある20世紀の姿を取り戻している。これは夢なのか? タイムスリップしたのか? 家に行くと、40数年ぶりに会う両親や妹がいる。しかし、日付は1967年6月12日(月)。父が失踪して、一家が悲劇のどん底に突き落とされた “呪わしき父の40歳の誕生日6月5日” を1週間も過ぎている。すると、タイムスリップではない。夢のままなのか? パラレル・ワールドなのか? トマは、夢だと思うことにして、眠りにつく。しかし、翌朝起きても、状況は変わらず、夢ではないと気付かされる。そこから、映画の本編が始まる。主たる登場人物は、一番の親友で、バーの経営者の息子ルソーと、かつてトマが密かに憧れた1つ年上のシルヴィー。2人との絡み合いが映画を進めて行く。そのうちに、ふとしたことから、父の誕生日が、自分の事故のせいで延期されたことを知る。ということは、父が、延期された誕生祝いの日に出奔する可能性は高い。トマは、自分が14歳に戻ったのは、この愚行を止め、母を筆頭に 残された一家を襲う悲劇を救うためだったと解釈する。そこで、友達付き合いを放置し、父の監視に専念し、父が逃げ出した夜の、“家を出て行った理由” であるパンも、先に購入して口実を与えないよう万全の体制を取る。しかし、すべては徒労に終わり、父は出て行ってしまう…

14歳のトマ役は、レオ・ルグラン(Léo Legrand)。1995年11月5日生まれ。映画の公開は2010年5月。標高480mの山の中の湖で泳ぐシーンがあり、山に雪がないので、撮影が2009年の夏だとすれば、撮影は13歳の終わり。レオは、ずっと昔に紹介した、フランス映画『ジャクー/森の人』(2007)〔あとから、日本でも公開されて、邦題が『ジャック・ソード』となった〕で、プロモーション用に出回った写真(右)は、実に可愛かった。しかし、残念ながら、その可愛らしさが活かされた映画はなく、ようやく、この『遥かな町へ』で、美少年ぶりを堪能することができた。ただし、『ジャクー/森の人』の3年後なので、もう青年に近く、美少年からイケメンになってしまっている。

あらすじ

映画の冒頭での設定は、映画が撮影された2009年の夏。主人公トマの50代半ばの顔が映り、「あんな奇妙な冒険が待っていようとは、予想だにできなかった」という独白が入る。部屋の中には、マンガの下書きが貼ってあるので、漫画家だと分かる。妻に 「帰りはいつ?」と訊かれ、「明日」と答える。「夕食までには帰ってね」。14-15歳と12歳前後の娘2人が、「行ってらっしゃい」と声をかける。トマは、大きくて立派な鋳鉄とガラスで出来たアール・ヌーヴォー様式の扉を開けて外に出る(1枚目の写真)。ここがどこか、すぐに分かった。アルボニ通りの終点。セーヌ河を渡るビル=アケム橋(1906年)の始点。この橋は2階建てで、2階部をメトロ6号線が走る。メトロの線路の直下(1階)で、優雅な支柱に囲まれた部分が歩道、その両脇が車道という変わった橋。トマが出てきた扉と、橋の位置関係は、2枚目のグーグル・ストリートビューでよく分かる。建物の左、ギリシャ神殿の柱を模した新古典主義の2本の橋脚で支えられているのがメトロ6号線の高架橋(橋の側から、トマの一家が入っている建物を撮ったYouTube動画→ ここをクリック→メトロが橋を渡り終えた時、最初に通過する矢印の建物。屋上に2つ黒い円筒がある19世紀の白亜のビル)。トマが行った先は、コミックブック・フェア。彼のコーナーだけ閑散としていて、トマは、暇を持て余して何か食べている(3枚目の写真)。そこに、高校生か大学生のファンがやってきて、「新作ですか?」と訊く。ところが、トマが持って来たのは、何と2年前に出版したもの。ファンは、がっかりして去って行く。恐らく、置いてあった本は、1冊も売れなかったに違いない。そして帰りの列車の中で、トマが窓にもたれて眠っていると、車掌が切符のチェックに来る。トマが切符を渡すと、「これは、違う列車です」と言われてしまう。「パリ行きじゃ?」(4枚目の写真)。「いいえ」。「次の駅で引き返しても?」。「そうして下さい」。

  
  
  

トマは、最初の駅で降りる(1枚目の写真)。そこで分かるのは、①背後の風景から、フランスアルプスに近い、②列車が 僅か1両編成なので、遠距離用とは思えない、の2点。フランスアルプスに近いということは、パリからはかなり離れている。実際、ロケ地のナンチュア(Nantua)は、スイスのジュネーヴの西約40キロにあり、パリからは約390キロ(南東)も離れている。コミックブック・フェアは、リヨンであったのか? パリに帰るつもりが、ジュネーヴ行きに乗ったのか? それにしても、なぜ、普通列車に? この辺りは判然としない。トマは、列車から降りて辺りを見回し、ここが自分の生まれ故郷の町だったことを知る〔あまりにも偶然だが、全体の内容からして、“運命がそう定めていた” のかも〕。駅舎の時計は、ほぼ11時を指している。駅員に 「次のパリ行きは?」と訊くと、「17:20」。あと6時間以上ある。トマは、駅から出て、町に入って行く(2枚目の写真)。因みに、3枚目の写真は、グーグル・ストリートビュー(ロテル・ド・ヴィル通り)。歩いていく途中で、遥か昔親友だったゴダンに出会う。ゴダンは、すぐトマだと気付く。その後の会話の中で、最後に2人が会ったのは、トマの母の葬儀(1975年)と時だったと分かる〔2009-1975=34年。55歳と21歳では全く違う。ゴダンは、なぜ、相手がトマだと分かったのだろう? トマ役の俳優と違い、ゴダン役の俳優は10歳も若いので、青年期の面影が残っているが、トマ役の俳優にはそれがない。キャスティングが悪いので、ここも不可解としか言いようがない〕。トマは、昔住んでいた家に案内してもらうが、そこは、トマが住んでいた頃の紳士服の裁縫店から、電器店に変わり、今では廃業して誰も住んでいない。ゴダンは、急に、「あれから、父さんとは会えたのか?」と訊く。「いいや、一度も」。「お前の誕生日に出てったんだよな?」。「いいや、親父の誕生日だ。家族で食事することになってた。親父はパンを買いにいったきり…」。ゴダンは、飲みに行こうと誘うが、トマは母の墓に行くと言って別れる。そして、小高い丘の上にある墓地の一角に作られた質素な母の墓の前で、トマは両手を愛しい母を埋めた石に置く(4枚目の写真)。墓石には、「Anna Verniaz」という名前と、「1927-1975」という生没年が刻まれている。独白:「私は、母の死が 病気によるものか、悲しみによるものか、ずっと気になっていた。母は、父を二度と会えなかった。彼が、突然、跡形もなく消えてからは」。立ち上がったトマが 飛んで行った蝶を目で追っていると、立ちくらみがしてそのまま頽(くずお)れる。そして、暗転。
  
  
  
  

倒れた状態のトマは、気付いて立ち上がる。身が軽い。自分の手を見てみると、若々しい両手だ。履いている靴も違う。そのまま走って墓地から出る、下の道路に自転車が倒れている(1枚目の写真、矢印はトマ)〔最後から2つ目の節の1枚目の写真と対比〕。トマは、奇妙な事態に困惑しながら、自転車に乗って町に戻る。時々すれ違う車は、すごく旧式だ。町の様子も、さっきの “死んだように静か” な町と違い、活気に満ちている。途中、見つけた店で、ガラスに映る自分の姿を見てみる。そこには、遥か昔の自分の顔が写っていた(2枚目の写真)。一体何が起きたのだろうと、不安でならない。途中で、さっき会ったばかりのゴダンに会うが、やはり少年に戻っている。トマが向かった先は、自分の家。左のショーウィンドウには、「裁縫師」と書かれ、目の前の道路には父が使っていた車が停めてある(3枚目の写真)。4枚目の写真は、グーグル・ストリートビュー。映画では、背後の山が映っていないので、敢えて添付した。
  
  
  
  

トマが きょろきょろと見ていると、中から父が出て来て、「見つけた。どこにいたんだ?」と訊く。42年ぶりに父の姿を見たトマは、茫然とした顔で、「パパ?」と囁く(1枚目の写真)。父は、トマの、如何にも “物問いたげ” な顔を見て、「訊きたいことでもあるのか?」と、迷惑そうな顔で言い、車から布を出して店に運んで行く。トマは、何もせず、ただ突っ立っているだけなので、「ほら、手伝え」と言われる。次のシーンでは、2人が、それぞれ2個の布の包みを持って、店に運んで行く(2枚目の写真)。布をテーブルの上に置いた後も、トマは、亡霊でも見るように父を見続ける。すると、今度は、すりガラス越しに母のシルエットが見えたので、キッチンに入って行き、母の背中をじっと見る。人の気配で振り返った母は、「どうかしたの?」と訊き、トマが、ひたすら見続けているので、「また、頭痛がするの?」と心配し、トマに寄って行くと、熱がないか額に触ってみる(3枚目の写真)。この “あり得ない世界” に来て初めて肉親に触れられたトマは、困惑するばかり。母が、「持って来てくれた?」と訊くと、「何を?」としか言えない。「ハムよ。肉屋に行くよう頼んだでしょ」。「忘れた」。「なら、どこにいたの?」。「どこにって…」。「気にしないで」。トマは、妹を見つけると、「キスしてくれる?」と頼む。異例の発言なので、「なぜ?」。「明日はいないかも」。その言葉に、妹はトマの頬にキスをする。
  
  
  

午後8時過ぎ、一家の夕食が始まっている。そこに、トマが現われる。母は、「泣いてるの?」と訊き、妹は、「大丈夫?」と心配する。父は、「男なら その年で泣くな。座れ」と厳しい。トマは、「ただ、ちょっと… あまりにもリアルで、夢とは とても思えないから…」と口にし(1枚目の写真)、母に、「バカ言ってないで、座りなさい」と言われてしまう(2枚目の写真)。食事が終わると、トマが積極的に食器を運んでくれるので、母は驚いて見ている。その後、トマは、居間で白黒TVを見ている父から離れたソファに座り、置いてあった新聞を見る(3枚目の写真)。新聞の発行日は、1967年6月12日(月)となっていた。それは、トマにとって重要な意味を持っていたので、すぐにキッチンに戻ると、母に、「パパの40歳の誕生日… 6月5日だったよね?」と尋ねる。「それがどうか?」。「今日は、もう12日だ」。父は、1967年の誕生日に家出をしたハズなのに、誕生日を過ぎて1週間経つのにまだ家にいる。この奇妙な不一致は、トマを喜ばせる。独白:「私は、すべてが夢だと信じ込んでいた。その夢の中で14歳に戻り、そこでは父が私たちを見捨てなかった」。
  
  
  

トマの寝室に母がやってくる。「古いパジャマを着てるのね」。「好きだから」。そう言うと、“お休みなさい” 前の簡単なキスのつもりで近づいてきた母を、トマは万感の思いで抱き締める(1枚目の写真)。母は、“この子 いったいどうしちゃったの” という顔を一瞬見せるが、あとは笑顔になって、「よく眠るのよ」と優しく言う。母が次に向かったのが妹の部屋。こちらは、いつも通りのキスだけ。2人の子供部屋の間のドアは開いているので、母が出て行くと、妹が、「トマ、お話の続き 聞かせて」と頼む。トマにとっては “続き” などないので、「何の話?」と訊く。「昨夜、始めたじゃない。凶暴なカバのお話」。「今日は止めるよ。疲れてるんだ、ニニーヌ」(2枚目の写真)。その夜の最後のシーンは、子供の頃好きだったコリー犬に、話しかける場面。「お前に会えて嬉しいよ。だけど、明日起きたら… このベッドにいるのは、この僕じゃなく、別の僕だ」(3枚目の写真)。そして、暗転。
  
  
  

ここから2日目。トマは、母の呼び声で目を覚ます。「トマ、起きなさい。目覚まし忘れたの? 早くしないと遅れるわよ」。「どこに 遅れるの?」。「学校よ」。カーテンが開けられ、部屋が一気に明るくなる。トマは、昨日は特別な夢を見ていて、起きれば醒めると信じきっていたので、まだ母がいて、自分は14歳のままなのにショックを受ける(1枚目の写真)。独白:「訳が分からない。夢でなければ、これはいったい何なんだ?」。急いで服を着たトマは、父の仕事場で待っている妹のところに駆けつける。トマは、2人分の食費として5フラン渡される。家を出ると、トマは、「手をつなごう」と言って、妹と手をつなぐ。妹は、「そんなこと、もうしたくないって言ったじゃない」と、疑問を口に出す。「そんなことって?」(2枚目の写真)。「人前で 手をつなぐこと」。「構うもんか」。トマは、妹を連れてお菓子屋に入り、妹に好きな物を選ばせる。そして、学校に行く途中、2人で仲良く分け合って食べる。学校に着くと、ほとんど減っていないお菓子は妹にプレゼント。代わりに、一番の親友のルソーが声をかけてくる〔トマではなく、姓のヴェルニヤで呼ぶ〕。トマは、校庭での点呼の際、名前を呼ばれても夢うつつで返事をしなかったため、「夢でも見てるのか?」と訊かれ、「分かりません」と答える〔正直な気持ち〕。教室に入っても、どこに座ったらいいか分からないが、ルソーが、首で合図したので 隣の席に行く。机の中にいつも入れておいたノートを取り出し、中をめくってみる。1枚目の絵はコリー犬、しばらくめくると、14歳の時、憧れの対象だった1歳年上の女生徒のデッザンが出てくる(3枚目の写真)。そして、男性の教諭が入って来て、ラテン語の書き取りが始まる。教諭が読み上げるのは、セネカ〔ローマ帝国初期のストア派哲学者〕の『幸福な生活について』の17節 「だから、もし哲学の悪口を言う人たちが、よくあるように次のように言うなら…」。トマは、書き取りをやめ じっと考える。
  
  
  

その日の授業が終わり、さっきのノートの絵の女生徒も外に出て来る。それを見たトマは、一緒にいたルソーに、「あれって、シルヴィーだよね?」と訊く。「知ってるくせに」。「一度も話しかけたことがない」。「誰でもそうだ」。独白:「遠くからの密(ひそ)かに想うだけの初恋だった」。そのあと、トマはルソーの家に行く。ルソーは、バーに入って行く。日中なので誰もいない。ルソーは女性のバーテンダーに、「やあ、ネリー、母さんは?」と訊き、「2階」と言われるので、ネリーは、姉か、雇用人か? ネリーは、トマを見て、「今日は、トマ、美容院に行った?」と訊く(1枚目の写真)。「ううん、別に」。「そう? 雰囲気が違うわ」〔さすがバーテンダー。外見は14歳だが、中身は50歳半ばなので、大人の雰囲気を感じた〕。ルソーはシュウェップス〔イギリス製の炭酸飲料〕、トマはオランジーナ〔柑橘系の炭酸飲料〕を、出してもらい、2人でルソーの部屋に行く。トマは、本棚の中から、Jean Giraudの西部劇漫画『ブルーベリー』シリーズ3巻「L'Aigle solitaire」を見つけると、「これ、コレクターズ・アイテムだよ」と教える。「何だって?」。「稀覯(きこう)本なんだ」〔現在、フランスのeBayで10EURなので、稀覯本とは言えない〕。「欲しけりゃやるよ」。「ありがとう」。このあと、トマは、今回の自分の件について、「タイム・トラベルは可能だと思う?」と訊いてみる。「ああ、本ならな」。「変に聞こえるけど… 昨日から、僕、また14歳になったんだ」(2枚目の写真)。「バカバカしい。今、14なのに、なんでまた14になれる?」。「だけど、あるだろ… パラレル・ワールドとは異次元とか」。「本でも書けよ」。ルソーは、エロ本を出して、「やるか?」と、自慰行為を一緒にやろうと誘う。トマは、「前にも、一緒に?」と訊き、急に、「帰らないと」と言い出す。「もう?」。「両親に会いたい」。「ネリーの言った通りだ。お前、変わったな。だけど、髪型じゃない」。「年齢さ」(3枚目の写真)。
  
  
  

その日の夜、トマは、母から、「明日、イヴェットお祖母ちゃんに、持って行ってくれるわね?」と言って、薬の袋を渡される。ここで、トマは、うっかり、「まだ、生きてるの?」と言ってしまう。母に変な顔をされたので、「つまり、元気かどうか心配で」と、必死にリカバリー。そして、暗転。ここから3日目。トマは、ナンチュア湖畔にある祖母の家まで自転車で行き、庭で用事をしている祖母に、いきなり 「イヴェットお祖母ちゃん」と声をかけたので、祖母は、「来るなんて思わなかった」と驚く(1枚目の写真)。「僕もだよ。久し振りだね」。「日曜に、会わなかったかい?」〔3日前〕。「ほら、お祖母ちゃんの薬」。「ありがとう。学校には、行かなくていいの?」。「ううん、木曜日〔Jeudi〕だから」〔6月12日(月)にタイムスリップしてから3日目なので、水曜日のハズ。明らかな編集ミス/1967年のことは分からないが、現在のフランスでは水曜休み。これなら3日目でピッタリ合う〕。祖母は、一緒にお昼を食べていくよう勧める。祖母は、簡単な食事を出し、ついでに、古いアルバムを見せる。その中で、トマが興味を持ったのは、父と母と、もう1人の男性が映った写真。3人目を、「これ、誰?」と訊く(2枚目の写真、矢印)。祖母の話は長いので、簡単にまとめると、①3人目の名前はロベールで、父の無二の親友。②第二次大戦中は、2人ともレジスタンスに加わり、ユダヤ人をスイスに逃がすのを手伝った。③スイスで、ロベールはアナ〔トマの母〕に出会い、婚約した。④2人がレジスタンスの作戦から帰る途中、ナチの監視員に遭遇し、父は逃げたが、ロベルトは射殺された。⑤戦後、父は、死んだ親友の婚約者と結婚した(3枚目の写真)。トマは、自転車で帰る途中、祖母の言った最後の言葉、「2人の親友の死が、2人を結び合わせたんだよ」が頭を過ぎる〔父は、義務感だけで結婚したので、それが父に、人生をやり直そうと家出させる原因となった〕。そして、暗転。
  
  
  

ここから4日目。トマは目覚ましをかけておいて起きる。そして、朝食。トマは、パンに4種類のものを塗りつけて齧り、母と妹は面白そうにそれを見ているが、父は、生きているのがつまらなくて仕方がなさそうな顔で、ジュースを飲んでいる〔演技が ワンパターンで、下手過ぎる〕。学校では、女性教諭が数学の問題を出し、生徒達が解いているが、一人トマだけが、無関心(1枚目の写真、矢印)。それに気付いた教諭が、近寄っていくと、隠すどころか、シルヴィーの絵を熱心に描いている。教諭は、「ヴェルニヤ、あなた、美術の時間には数学をするの?」と皮肉り、「私のささいな代数の問題なんか、興味ない?」とっ批判する。「どうやって解くか、もう忘れました」(2枚目の写真)〔50代半ばの漫画家が、中学の代数なんか覚えているハズがない〕。「学期末ですよ、しっかりなさい! その絵を見せて」。「ダメ。プライベートです」。「ノートを渡しなさい」。トマは、ノートを渡す。絵を見た教諭は、「これは、これは。ミス・デュモンテル〔シルヴィー〕によく似てるわね」。生徒達が笑う。トマは、「先生に関係ないでしょ」と反論し、「生意気言うんじゃないの。立ちなさい」と言われる。14歳ではない、50代半ばのトマは、自分より年下の教諭に向かって、「不了見(ふりょうけん)な 当てこすりをしているのは、そちらです」と言ってしまい、教諭は、「もう限界! 今すぐ校長室に行きなさい!」と激怒(3枚目の写真)。
  
  
  

親切なルソーは、学校の門の所で、トマが校長室で絞られて出て来るのを待っていてくれる。そして、「注意しないと、退学させられるぞ」と忠告。ナンチュアの町が湖に面している遊歩道の所で、トマ、ルソー以外に5人の男子生徒が集まっていると、そこにシルヴィーが、女子生徒2人を連れて寄って来て、「あんたたちの、誰がトマ・ヴェルニヤ?」と訊く(1枚目の写真、矢印がシルヴィー)。トマ:「僕だけど」(2枚目の写真)。シルヴィー:「私が、お偉い画家とやらのモデルに?」。「お偉くなんかないよ」。「見せてよ?」。トマは、授業中に描いていた部分を開いて渡す。絵の出来に満足したシルヴィーは、笑顔でノートを返す(3枚目の写真)。そして、「またね」と言って別れる。家に帰ったトマは、彼女の新しい絵を描き始める。独白:「いつまで、第二の青春が続くか分からなかったが、心地良かった」。そして、暗転。
  
  
  

ここから5日目学校の休憩時間中、シルヴィーが外で本を読んでいると、それをトマが遠くから見ていて、シルヴィーが見られていることに気付く(1枚目の写真)。そして、笑みを漏らす。学校が終わってから、トマが母の物干しを手伝うシーンがある。シーツを頭から被ったトマが母に抱き着くと、母も抱き締めてくれる(2枚目の写真)。夕方になり、コリー犬を森に連れて行ったトマは、ひとしきり遊んだあとで、犬に向かって語りかける。「娘たちに、犬を飼ってやればよかった」(3枚目の写真)「きっと、喜んだろうに」と言った後で、「もし、まだ、存在していれば」と、不安も覗かせる。夜、トマは、妹が悪夢でうなされているのを、優しく宥めてやる。
  
  
  

暗転はしないが、翌朝なので、ここから6日目。トマは、自転車を勢い良く漕ぎ、しかも、結構長く走り続ける(1枚目の写真)。そして、着いた先は、母の墓のある墓地〔ここで、疑問が持ち上がる。トマは、自転車でかなりの距離の斜面を走ってきた。初老のトマが、映画の冒頭で墓地に行くシーン。歩く速度は遅いし、キャスター付きとはいえ、スーツケースも引いている。墓地は もっと町に近いかと思っていたら、こんな高台にあったとは。初老のトマに、そんなスタミナと時間があったのだろうか?〕。トマは、母の墓の前に立つ(2枚目の写真)。独白:「ここで、私は過去に戻った。同じようにすれば、戻れるかもしれない」。トマが目をつむると、風が巻き起こる。彼は、期待して目をつむり続けるが(3枚目の写真)、以前は、蝶を目で追っていた。その違いのせいか、まだ、“使命” が終わっていないのか、トマが目を開けると、14歳のままだった。そして、暗転。
  
  
  

ここから7日目。父が、背広の生地を、布に付けた白い印に沿ってハサミで切っていると、母が、「ブリュノ、電話」と、そっけなく呼ぶ。父が作業を中断し、「誰だ?」と訊くと、「女の人。名前を言わないの」と、不満げに答える。「もしもし。やあ。ううん、ちょっと待って。何とかする。心配しないで」。その親しげなやり取りに、母は、不安を覚えて部屋を出て行き、トマは、その様子を2階から見ている(1枚目の写真)。“父には愛人がいる” と確信したトマは、父の仕事部屋の中を徹底的に探す。独白:「何を探しているのか分からなかった。しかし、電話は私をまた不安にした」。しかし、探しても、何も見つからない。しばらくすると、父は、釣り道具を手に、出かけようとする。トマは、「パパ、僕も釣りに行きたい」と頼む(1枚目の写真)。「じっと座っているだけだから、退屈だぞ」。「いい子でいるから、約束する。一度くらい。お願い」。これで、意にそぐわぬ結婚で生まれた子供2人に、何の愛情も抱いていない男も、嫌とは言えなくなる。父が行ったのは、町から離れた湖畔。トマは、昔、14歳だった時には訊こうともしなかったことが訊ける唯一のチャンスなので、「パパ、幸せ?」と質問する。父は何も言わない。「仕事は好き?」。相変わらず、黙ったままだ。「聞いてないね」。「聞いてるぞ。自分で選んだんじゃない。戦後は大変な時だった。だから、お前の大叔父の店を引き継いだ」。「裁縫できたの?」。「学んだのさ。まんざら悪くない商売だ。唯の布に、新しい生命を吹き込める」。「人生、変えてみたい?」(3枚目の写真)。これは、父の本心を言い表した質問なので、返事はない。「無口なんだね」。返事はない。「パパ、思うんだけど…」。「なんで、質問ばかりする?」。そのあとの重要でない会話のあと、父が釣りに行くのは、日曜日だと分かる〔結局、“ここから○日目” のカウントは正しかった〕。そして、暗転。
  
  
  

ここから8日目。学校が終わったあと、トマがルソーを乗せて ゆっくり走っていると、町角からシルヴィーが現われ、「今日は」と、自転車を停める。そして、「あなたと話があるの。少し、歩かない?」と訊く。異論は全くないので、トマは、ルソーに自転車を任せ、シルヴィーと一緒に歩いて行く。独白:「シルヴィー・デュモンテルから、話があるとは… ティーンエイジャーのように興奮した」。シルヴィーは、ナンチュア湖畔を歩きながら、トマに、「私に教えてくれない?」と訊く。「何を?」。「描き方。私、ファッション・スタイリストになりたいから。パリやロンドンで」。そう話した後、シルヴィーは、「あなたも、ファッション関係に?」と訊く。トマは、「ううん、僕は、漫画を描くんだ。あなたをモデルにしたキャラで、大ヒットだよ」(2枚目の写真)〔事実を言っただけなのだが、シルヴィーは、トマが自分に気があると思う〕。「私を?」。「そう。でも、それに気付いたのはずっと後なんだ。正確に言うと、3日前」〔トマが漫画家として売り出した時、もうシルヴィーのことは忘れていた。自分のヒット・キャラの女性「Agatha Hayes」が、シルヴィーがモデルだったと気付いたのは、14歳に戻ったトマが、シルヴィーの絵を授業中に描いていた時〕。2人は、シルヴィーの父の診療所の前で別れるが、その時、シルヴィーはトマの頬に軽くキスする(3枚目の写真)。それが余程嬉しかったのか、家に帰ったトマは、レコードをかけてベッドの上で踊り始める。それを見た妹も、一緒に踊る。「私、大きくなったら、ダンサーになりたい」。「ニニーヌは、大きくなったら学校の先生になり、それが気に入るんだ」。そこに、母もやって来て、ベッドの上ではなく、床の上でトマと楽しそうに踊る。しかし、この幸せなひと時は、父の無粋な 「騒がしいぞ」の一言で終わりを告げる。そして、暗転。
  
  
  

ここから9日目。トマが、学校の帰り、町のメインストリートを歩いていると、父が一軒の店に入って行くのが見える。トマは、ショーウィンドウからこっそり中を覗く。父は、何かを買い求め、きれいな包装紙に赤いリボンをかけてもらう(1枚目の写真、矢印)。父は店を出ると、すぐ車に乗り込んだので(2枚目の写真)、徒歩のトマには、悲しい顔で見送ることしかできない(3枚目の写真)。そして、暗転。
  
  
  

ここから10日目。授業が終わると、トマは、ルソーの誘いを断り、「ガールフレンドとデートするからか?」の質問には、「彼女は、ガールフレンドじゃない」と返事して、まっすぐシルヴィーに向かい、シルヴィーはすぐにトマの頬にキスする(1枚目の写真)。校内でのあからさまなキスに、男子生徒から口笛や はやし立てる声が沸き起こる。「バカな連中ね」。「子供なんだ」。シルヴィーは、トマを家に連れて行く。患者の診療を終えた父親は、トマを見ると、「その後、体調はどうだね? もし、まだ頭痛がするようなら、診察を受けるんだぞ」と話しかける〔伏線〕。シルヴィーは、オランジーナを2個持つと、2階の部屋にトマを連れて行く。次のシーンでは、シルヴィーが、スケッチブックに、ギターの絵を描いているが、何度も細かい線を描き加えている。それを見たトマは、鉛筆を持つ角度を変えさせ、シルヴィーの手を持って、真っ直ぐに長い線を描かせる(2枚目の写真)。一度手を離すと、今度は、「線は、もっと力強く引かないと」と教える。しかし、シルヴィーは、絵よりもトマの方を見ている。そして、「ダメね、ギターには見えない」と言う。トマは、「写実的でなくていいんだ。独自のビジョンをもった、自分らしいスタイルを見つけないと」と、如何にもプロらしい発言をする。絵のことなんかどうでもよくなったシルヴィーは、トマの手の上に自分の手を置くと、キスしようと顔を寄せる(3枚目の写真)。トマは、慌てて顔を背ける。「私のこと嫌いなの?」。「もちろん好きだよ、だけど…」。「だけど、何?」。「君、15だよ!」。「私が、年上だから?」。「そうじゃなくて、心の準備が…」。「できたら、言って」。1人で、湖畔の道を帰りながらの独白:「私は、変に気が咎めた。自分の娘と同じ年頃の子といちゃつき… 妻を裏切って浮気することに」。そして、暗転。
  
  
  

ここから11日目。トマはシルヴィーを乗せて湖に向かう。シルヴィーはトマにぞっこんだ(1枚目の写真)。そこは、家族連れで賑わっているが、恋人同士というのは2人だけ。2人は、水着姿で岸辺に座っている。トマは、まずデッザンの練習というが、シルヴィーは、「恋をしてると、そんな気になれない」と言い出す。「誰に、恋してるの?」。「誰? あなたよ。愛してるわ。あなた、私を愛してる?」。「うん、すごく愛してた〔過去形〕」。「もう、愛してないの? 会ってから1週間も経ってないのに」。そして、キスしようとすると、また避ける。「恥ずかしがり屋なの?」。それを聞いたトマは、シルヴィーにキスするが(2枚目の写真)、ふと気付くと、勃起していて、シルヴィーもそれに気付いている。恥ずかしくなったトマは、湖に飛び込む(3枚目の写真)。
  
  
  

家に戻ったトマは、母から、どこにいたか訊かれ、「ルソーの家」と嘘を付く。しかし、母が、そもそも質問をしたのは、ルソーから電話があったからなので、この嘘はすぐにバレる。そこで、「友だちといた」と答え(1枚目の写真)、「ガールフレンド?」と訊かれ、「女の子」と、“フレンド” の部分を消す。「分かったわ。誰なの?」。「個人的にことだから話さない。それに、信じないだろうし」。母は、それ以上追及しない。逆に、トマは、「ママこそ、今日は何したの?」と訊く。「買い物に洗濯…」。「なぜ、散歩に行かないの? 外に出て、人生楽しまないと。一緒に 出かけようよ」。こうして、2人は、湖畔のオープン・カフェに行き 話し合うが、そこでトマは、思いもよらないことを聞かされる。母:「あなたのお父さんに、プレゼントを買いにいかないと」。「プレゼント?」。「伸縮式の釣り竿よ。気に入ると思う?」(2枚目の写真)。「うん。だけど、何のプレゼント?」。「日曜の誕生日よ」。「誕生日って6月5日だよね?」。「そうよ」。「二度も祝うの?」。「トマ、あなた、よく知ってるハズじゃ…」。「ううん、分からない」。「ほんとに覚えてないの?」。「何を?」。母は、呆れてそれ以上、何も話してくれない。そこで、家に帰ったトマは、妹に訊いてみる。「ニニーヌ、僕たち、パパの誕生日まだ祝ってない?」(3枚目の写真)。そこで、妹が話してくれたことは、①トマの事故で延期になった。②トマは、父の誕生日の前日、行方不明になり、墓地の入口で、自転車から落ちて気を失っていた。③トマを診察したデュモンテル医師が、安静を指示した〔だから、シルヴィーの家で会った時、「その後、体調はどうだね?」と訊いた〕
  
  
  

独白:「やっぱり同じだった。この世界でも、父は、誕生祝いの夜に家族を捨てて消える」(1枚目の写真)。トマの頭の中では、40本のロウソクの立ったバースデー・ケーキが用意され、母が 「パンを買い忘れた」と言い、父が 「すぐ戻る」と家を出て行く様子が再現される(2枚目の写真)。独白:「その夜、父は、駅に直行した。警察によれば、父は、午後8時45分発のパリ行きに乗った」(3枚目の写真)「その先は、行方知れず。父を見た者は誰一人いない。私が過去に戻ったのは、事故ではなかった。家出を止めるためだったのだ」。そして、暗転。
  
  
  

ここから12日目。トマは、朝、父と話すのも、車に乗るのも拒否される。学校に行っても、父のことが心配で、シルヴィーが遠くから目線を送っても、見向きもしない。そして、暗転。ここから13日目。トマは、ゴダンに頼み込み、1967年当時の表現をすれば、いわゆる 「原動機付自転車」 を借りる。そして、父の車の跡をつける(1枚目の写真)。父の行き先のほとんどは、仕事関係だったたが、遂に、ある1軒の民家に入って行く。手前にバイクを乗り捨てたトマは、木立に隠れて近づき、父が、ベランダにいた1人の女性を優しく抱くのを見てしまう(2・3枚目の写真)。
  
  
  

トマは、ルソーのバーに入って行くと、カウンターに座り、バーテンダーのネリーに、「ウイスキーお願い」と頼む。「あなたは未成年よ」。「違うよ」〔確かに、半分は正しい〕。「そうなの?」。「ねえ、いいでしょ。誰にも分からないから」。ネリーは、シングル1杯分を渡すが、初老のトマは慣れているので、一気に飲み干す。そして、お代わりと同時にタバコも要求。ネリーは、両方とも要求を満たし、トマは、ごく普通に吸って、2杯目も飲み干す(1枚目の写真、矢印)。しかし、3杯目は、拒否され、「トマ、もう帰らないと。お母さんが心配するわ」と言われる。トマは 「母? そうじゃない、妻だ」と言って、タバコを吸う。「まあ、あなた結婚してるの?」。「結婚してるし、子供も2人ある。娘が2人だ。愛されているかどうか、分からんが…」「私たちが、ちゃんと 愛してるよと言い、もっと大事にしていたら、彼はどこにも行かなかったかもしれない」(2枚目の写真)。完全に酔っぱらったトマがルソーのベッドで横になっていると(3枚目の写真)、そこに、父が迎えに来て、「今から、こんなに酔って、恥ずかしくないのか?」と言いながら、トマの体を起こす。トマは、「自分はどうなの? 恥ずかしくないの?」と言い、父に引っ叩かれる。そして、暗転。
  
  
  

ここから14日目。朝、母に起こされたトマは、大丈夫かと訊かれ、「頭痛がするが、ただの二日酔い」と、二日酔いなど経験したことのないハズの14歳としては、異例の返事をし、母をびっくりさせる。そして、一番心配な父について、「パパはどこ?」と尋ね、母からは煩(うるさ)がられる。起き上がったトマは、学校に行ったフリをして、父の跡をつけ、例の森の中の女性の家から、荷物を持って父が出て来るのを確認し、さらに跡を追う。父が向かった先は、病院。トマは、父が入って行った病室の手前でじっと待機する。かなり時間が経ち、父が部屋を出て行くと、トマは、部屋を覗いて見ようと、廊下の仕切りドアを開け、病室から出てきた女性と顔が合ってしまう(2枚目の写真)。女性は、ピンときて、「トマね?」と訊く。場面は、病室の中に変わる。トマは、「訊きたいことがあるんです。あなたと… 父さんは…」。女性は、関係をきっぱり否定し、①幼少の頃からの友達。②病気の治療のためここに来た。③父には、もう来ないよう進言する。④命は短いと話し、同情したトマは女性を抱きしめる〔初老のトマのように〕。家に戻ったトマは、学校から、2日、無断欠席があったと連絡を受けたと母から告げられる〔ずっと、父の跡を付けていた〕。理由を訊かれ、トマが、「分からない」と誤魔化すと、母は女生徒とのデートだと誤解して、丸く収まる。
  
  
  

その日の夜、シルヴィーに呼び出されたトマは、ひと気のない小屋まで行き、シルヴィーから少し離れて座る(1枚目の写真)。シルヴィーは、「怖いの?」と訊く。そして、返事を待たずに、「私もよ、少し」「注意してね。意味、分かるわね」と言う〔「初めてのセックスでしょうから、避妊に注意して」、というような意味〕。この言葉に対し、トマは、「僕にはできない。ごめん」と謝る。「愛してないのね?」。「そうじゃない」。「じゃあ、何?」。「聞いて… もっと大事なことがある。パパが僕の人生を破壊するのを止めるまで2日しかない。君と僕… 待てるだろ!」(2枚目の写真)。それを聞いたシルヴィーは、意味不明の弁解に、その気がないのだと判断し、さっと立ち上がると 足早に去って行く(3枚目の写真)。トマも、呼び止めようとはしない。そして、暗転。
  
  
  

ここから15日目。トマとルソーが、湖畔に佇んでいる。ルソーが、「話せよ。友だちじゃなくなったのか?」と口をきる。「友だちだよ」。「前みたいに話さない」。「昔みたいに?」。「彼女のことばっかだ」。「そんなことない」。「フラれたのか?」。「うん… いいや… かもね」。「じゃあ、どうしたんだ?」。「何も。つまり… 思うんだ… これから、僕に何か起きるって」(2枚目の写真、矢印はタバコ)。「悪いことか?」。「パパが出て行く」。「旅行か?」。「いいや。二度と帰って来ない」。夜、トマがベッドで横になっていると、そこに父が入って来て、足元に座る。「眠ってないのは分かってる。それに、お前が彼女に会ったことも」。トマは、まだ眠っているフリをしている。「彼女は死んだ」。この言葉で、トマは顔を上げて父を見る。「死ぬ前に、何て言ったか分かるか? 『生き続けてきたけど、楽しい人生じゃなかった。今となっては手遅れよ』」だった」(3枚目の写真)。トマは、父の手を、慰めるように触る。そして、暗転。
  
  
  

ここから16日目。妹が、母の助けを借りて、ロウソクを数えている。「37、38、39、40」(1枚目の写真)。そこに父が現われる。父は、自分のためのバースデー・ケーキをチラと見る。母は、急に、「パンを買い忘れた」と言い出す。父が、自分が買いに行くから 「すぐ戻る」と言うと同時に、そうはさせまいと、トマが、さっとパンを取り出して見せる(2枚目の写真)。これで、父は、パンを買うと言って、家を逃げ出せなくなる。そして、実に静かな、誕生日祝いのディナー。黙々と食べる父を、監視するようにトマが見ている(3枚目の写真)。
  
  
  

食事が終わり、テーブルの上を片付け、バースデー・ケーキのロウソクに火が点り、定番の歌と共に、運ばれてくる。しかし、食卓に父の姿はない。それに気付いたトマは、父から目を放した失態を罵り、すぐドアに走って行く(1枚目の写真)。そして、自転車を飛ばして、真っ直ぐ駅に向かう。幸い、間に合って、真っ暗なホームには、父1人がベンチに座っていた。トマは、真っ直ぐ父に向かって歩いて行き、「パパ」と声をかける。父は、自分の居場所をトマが知っていたことに驚き、「ここで何してる?」と訊く。「そっちこそ。みんなが待ってるのに」。「私が、ここにいると、どうして分かった?」。「あんたはパリに行く」。「なぜ知ってる?」。「知ってるから」。「お前の母さんに伝えてくれ。お金はクローゼットにあると」。「ママは、乗り越えられない。あんたが去った後、ママはすごく大変だった。店を続けようとしたけど、失敗。片手間仕事で 僕らを育てるしかなかった。ママは、あんたをずっと待ってた。そして、若くして死んだ。最悪だよ。行っちゃダメだ」(2枚目の写真)。父の言葉:「私は、自分の人生なのに、自分では何も選べず、したくないことをずっとやらされてきた。手遅れになる前に、どうしても試してみたい。お前も、私の年になったら、理解するだろう〔トマは、父より15歳ほど年上だが、理解できない。それは、トマが、自分の好きな人生を歩み続けてこれたからでもある〕。列車がホームに入って来る。父は、トマは、それ以上反対せず、父を抱擁し、それが終わると、父は列車のドアを手で開けて中に入り、再び、自分でドアを閉める(3枚目の写真)。列車はゆっくりと出て行く。
  
  
  

トマは、真っ暗な森の中でじっと考える(1枚目の写真)。そして、家に戻ると、母が起きて待っている。その母に対し、トマは、「僕は、彼と一緒にいた」と、明言する。「どこで?」。「駅だよ。彼は、出てった。何とか止めようとしたんだけど…」。それに対し、母は、「いつか、こんな日が来ると思ってたわ。心配しないで、戻ってくるから」と、自分を納得させるように言う。しかし、トマは、このまま母を若死にさせたくなかったので、必死になって説得する。「ママ、彼は戻らない。僕を信じて」(2枚目の写真)「聞いて。今度のことで、押しひしがれちゃダメだ。自分の人生を考えて。まだ若いんだ。彼を待たないと約束して(3枚目の写真)〔再婚を促している?〕
  
  
  

ここから17日目。トマが、悲痛な面持ちで、メインストリートをゆっくり自転車で走っている(1枚目の写真)。2枚目の写真は、墓地に近づいたトマ(矢印)。そして、彼は、墓地の角を曲がった所で転倒する(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

次のシーンでは、倒れた自転車から半身を起こした14歳のトマ①が、パリから来た50代半ばのトマ②の墓参姿を見る(1枚目の写真、矢印)。これは、映画本編の白昼夢の一種のエンドレス・ループ。トマ①は、自転車を放り出して、墓地に走って行く。すると、以前と同じように蝶が舞っていて、その蝶を目で追っていると(2枚目の写真)、立ちくらみがしてそのまま頽(くずお)れる。そして、暗転。気が付くと、トマ②に戻っていて、冒頭と同じように、墓の前に立つ(3枚目の写真)〔トマ①は、母に対して、父の家出を気にせず、有意義に人生を生きるよう、再婚も含めて勧めるが、母の墓標では、姓も変わっていなければ、死亡年も同じ。つまり、トマ①の必死の説得など、実際にはなかったことになる〕。映画の冒頭では、14歳のトマ①が、墓地の入口に全く同じ形で倒れていた自転車に乗って町に行くので、エンドレス・ループという表現を用いた。
  
  
  

トマは、帰りの列車の中でも車掌に切符の提示を求められ、車掌に渡す(1枚目の写真)。今度は、列車は間違っていなかったが、車両が違っていた〔この時、トマは、“パリ行きのTGV” という表現を使っている。あんな小さな駅にTGVが停車するハズがないので、途中で取り換えたことになる〕。この時、斜め後ろの席に座っているのが、この映画の原作者、谷口ジロー本人(2枚目の写真)。パリに着いたトマは、自宅のある建物まで歩いて戻ると、窓から、妻と娘2人が、トマの50何歳目かを祝うバースデー・ケーキの準備をしているのを見て微笑む〔彼が、予定通りの日時に帰宅した証拠〕。映画の最後は、彼が体験した白昼夢によって、創作意欲が刺激され、新作漫画が描かれていく場面(3枚目の写真)。
  
  
  

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